車のキーを回してもエンジンがかからない、あるいはキー自体が回らないといったトラブルが発生した場合、その原因の一つとしてイグニッションキーシリンダーの故障が考えられます。このキーシリンダーは、単に鍵を差し込んで回すだけの機械的な部品ではなく、車の電気系統と密接に連携し、エンジン始動の許可を与える重要な役割を担っています。キーシリンダーの内部は、鍵の形状に合わせて配置された複数のピンやタンブラーといった精密な部品で構成されています。正しいキーが挿入されると、これらの部品が適切な位置に揃い、シリンダーの回転が可能になります。しかし、長年の使用による摩耗や、埃・異物の混入、あるいは無理な力の印加などによって、これらの内部部品が損傷したり、動きが悪くなったりすることがあります。これが、キーが回らない、あるいは引っかかるといった症状の直接的な原因となります。さらに、キーシリンダーは機械的な部分だけでなく、電気的な接点も持っています。キーを回す角度(ACC、ON、START)に応じて、対応する電気回路への通電を制御しています。例えば、「ON」の位置では各種電装品(メーター、燃料ポンプなど)に電力が供給され、「START」の位置ではセルモーターが回転してエンジンを始動させます。この電気的な接点が、摩耗や腐食、接触不良などを起こすと、キーは回るのにエンジンがかからない、あるいは特定の電装品が作動しないといった不具合が発生します。特に、キーを回してもセルモーターが全く反応しない場合は、この接点不良の可能性が疑われます。キーシリンダーの故障は、単にエンジンがかからないだけでなく、走行中に突然エンジンが停止するなど、重大な安全上の問題につながる可能性もゼロではありません。そのため、キーの回りが悪い、引っかかる、エンジンのかかりが悪いといった初期症状が見られた場合は、放置せずに早めに点検・修理を依頼することが重要です。修理方法としては、シリンダー内部の洗浄や調整で改善する場合もありますが、多くの場合、キーシリンダーユニット全体を交換する必要があります。交換作業には専門的な知識と技術が必要となるため、自動車ディーラーや信頼できる整備工場、鍵の専門業者に相談しましょう。
エンジンがかからない車のキーシリンダー内部の仕組みと故障