「この道30年、水漏れの現場は数えきれないほど見てきましたよ」と、穏やかながらも確かな経験を滲ませる口調で語り始めたのは、ベテラン水道修理職人の水野さん(仮名)だ。八王子市でトイレつまりが必要になった配管を交換するには私たちは、多くの人が最も恐れる家庭のトラブル、水道管破裂とその修理代について、プロの本音を聞くべく彼のもとを訪れた。高額な請求を避けるために、私たち利用者は何を知っておくべきなのだろうか。 水野さんによれば、修理代が跳ね上がる最大の要因は「発見の遅れ」に尽きるという。「蛇口からポタポタ、なら数万円で済む話が、壁の中や床下でじわじわと何日も漏れていたとなると、話は全く変わってきます。私たちが駆けつけた時には、すでに壁や床の内部が水浸しで腐食が始まっていることも珍しくありません。こうなると、単にパイプを交換するだけでは済まず、壁を大きく壊し、濡れた断熱材を交換し、床板を剥がして乾燥させる、といった大掛かりな復旧作業が必要になります。修理代が数十万円に膨れ上がるのは、ほとんどがこの二次被害の修繕費用なんですよ」と彼は言う。つまり、修理代を抑える最も確実な方法は、異常をいかに早く察知できるかにかかっているのだ。 では、私たちは日頃から何を注意すれば良いのだろうか。その問いに対し、水野さんは意外な答えを返してくれた。「水道メーターを見ること。これに勝る早期発見方法はありません。月に一度でいいんです。家中の蛇口を全部閉めた状態で、外のメーターボックスを開けてみてください。中の小さな銀色の円盤、パイロットメーターが少しでもクルクル回っていたら、家のどこかで水が漏れている証拠です。これが一番確実なセルフチェックですね」。多くの人が見落としがちなこの簡単な習慣が、後の高額な出費を防ぐための、最も効果的な「お守り」になるのだという。 また、トラブル発生時の利用者の行動が、結果的に修理代を高くしてしまうケースも多いと水野さんは指摘する。「パニックになって、電話帳やネット広告の一番上の業者にすぐ電話してしまう気持ちは痛いほどわかります。でも、それが一番危険です。特に『格安』を謳う業者の中には、基本料金は安くても、後から次々と追加料金を請求してくるところも残念ながら存在します。冷静に、最低でも二社、できれば三社から見積もりを取る時間と心の余裕を持つこと。それだけで、不当な高額請求をされるリスクは劇的に減りますよ」。プロの口から語られる「相見積もり」の重要性は、どんな広告よりも説得力があった。 最後に、水野さんはこう締めくくった。「結局のところ、水道管の修理代を抑えるコツは、特別な裏技があるわけじゃないんです。日頃から自分の家の状態に少しだけ関心を持って、いざという時に慌てず冷静に信頼できる相談相手(業者)を見つける。この、ごく当たり前のことが、実は一番の節約術なんですよ」。彼の言葉は、私たちの日々の暮らし方そのものが、予期せぬ出費に対する最大の防御策であることを静かに教えてくれていた。